リン・カーター&ロバート・M・プライス『クトゥルーの子供たち』

リン・カーター+ロバート・M・プライス『クトゥルーの子供たち』(森瀬繚+立花圭一 訳 2014年 エンターブレイン)今更に読。

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原著『The Xothic Legend Cycle』(R・M・プライス編 1997 Chaosium)から選定した8篇の邦訳で リン・カーターのゾス神話関連作7篇+編者プライスによるオマージュ(or補完)作1篇から成る。其々独立短篇としても読めるが 各作年代記的に密接に関わる連作集で 全体でひとつの長篇にも似た趣を呈する。「赤の供物」「墳墓に棲みつくもの」「奈落の底のもの」「時代より」「陳列室の恐怖」「ウィンフィールドの遺産」「夢でたまたま」「悪魔と結びし者の魂」(=プライス作)…の順次の読み進みにより ムー大陸の呪術師ザントゥー / H・H・コープランド教授 / ブレイン博士 / その助手ホジキンス / ウィンフィールド・フィリップス / ラファム博士 / アントン・ザルナック博士 / ハイラム・ストークリイetc…の善 / 悪交えた人物群の活躍 / 命運が連綿と(『ザントゥー石板』の翻訳まで含め!)語り繋げられていく。各作末尾に用語群の精細な註解があり理解の助けになる。
巻末にはプライスによるマニアックにして時にユーモラスな「作品解題」の他 訳者 森瀬氏/立花氏 各々による長文の力作解説。森瀬氏の精緻熱烈なリン・カーター讃は啓蒙性絶大。立花氏による解説はとくにプライスに関する詳述に教えられるところ多々。本書の邦題『クトゥル―の子供たち』は 森瀬氏によればカーターが重視したガタノソア/イソグサ/ゾス=オムモグの3神並びにカーター編の里程標的アンソロジー『THe Spawn of Cthulhu』のタイトルに因む由。また副題が『The Terror out of Time and Others(超時間の恐怖)』とされているのは 当初カーターが自身の連作をそう名付けて出版する計画だったが未刊に終わり それを邦訳書の形で実現したものが本書であるためとのこと。森瀬氏解説中での弊ブログ子の個人的注目点としては B・ラムレイ『タイタス・クロウの帰還』解説において同氏が指摘したカーターとラムレイの極めて濃い交流について再び述べられていること。「カーターもまた「地を穿つ魔」と題する短編小説のプロットを練っていた(『帰還』解説より)」が 結局そのタイトルはラムレイに譲り 自作は「The Winfield Heritance」と題した経緯があり(※この件については 契機となったHPL作「闇の跳梁者」を収録した新刊新訳作品集『這い寄る混沌』の解説でも触れられている) 当該作が「ウィンフィールドの遺産」として本書において訳出されたのはその意味でも慶事。当然とは言えBurrowers Beneathの解釈がラムレイと異なる点 面白し。

「前世代同世代の作家たちの作品から大量のワードを満遍なく作中にちりばめている」(=森瀬氏解説より)さながらクトゥルー神話博物館のごとき傑作集。

クトゥルーの子供たち

クトゥルーの子供たち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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