エレン・ダトロウ編 ニール・ゲイマン他『ラヴクラフトの怪物たち 上』

エレン・ダトロウ編『ラヴクラフトの怪物たち 上』(植草昌実 訳 新紀元社)読。

http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-1750-1/

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2014年刊の原著 LOVECRAFT'S MONSTERS(edited by Elen Datrow)邦訳の上巻。同編者によるラヴクラフティアン系アンソロジーの2冊目に当たり 1冊目では「ほとんどは書き下ろしの作品」(編者「はしがき」より)だった由だが 本書は(少なくともこの上巻は)主に他のホラー傑作集等より選定した作品から成る模様。既成の神話観に囚われない斬新さ優先の集成を目指すもののようで「(ラヴクラフトを)墓の下で切歯扼腕させるような」作品を探し集めた旨記している。

ニール・ゲイマン「世界が再び終わる日」──いきなり異色のハードボイルド調インスマス奇譚。現代に近い時代設定乍ら雰囲気は懐旧的詩情に富む。
レアード・バロン「脅迫者」──こちらも探偵主人公だが時代は遥か遡り舞台は西部。どう神話に絡んでくるか? と思わせつつ 軈てある怪しい展開へと…
ナディア・ブキン「赤い山羊、黒い山羊」──神話で山羊と来れば…と誘っておいて明示はしない寓話風幻談。
ブライアン・ホッジ「ともに海の深みへ」──これもインスマス現代篇だが ゲイマン作品と異なりアクチュアリティ漲る。神話版『シェイプ・オブ・ウォーター』?
キム・ニューマン「三時十五分前」──これまたインスマスだが ガラリ変わって洒落た都会派コント。タイトルは某ジャズ曲の歌詞から。
ウィリアム・ブラウニング「斑(まだら)あるもの」──パルプ風秘境怪異。触手を具えた探険ロボットがユニーク。神話要素は明示されないが ラヴィニアの名あり。
エリザベス・ベア「非弾性衝突」──妖しい天使姉妹の奇妙な遍歴譚。背後に昏い神話的世界観示唆。タイトルは小道具となるビリヤードに絡む科学用語。
フレッド・チャペル「残存者たち」──上巻最長の力篇。〈古きもの〉が蔓延する世界で生きる幼い兄妹と そんな地球の残存者への接触を図る異星人との交互視点記述。双方の未来は如何に…? 随所に〈テケリ・リ〉あり。

弊ブログ子を含め神話ファンは何より先ず神話要素こそに注目し過ぎな面を否めないが 敢えてそこに拘らず 新たな神話テイストを求める(その一方で書名どおり〈怪物〉は登場する)という編者の意図は この上巻を通じて徐々に感得。難解味の作品を含むも リズム感ある訳文の甲斐あって読み易さ例外なし。とくに個人的好みを挙げれば ストレートに緊迫感の昂まる「ともに海の深みへ」「残存者たち」か。東雅夫氏による解説「ゴジラVSクトゥルー!?」は怪物怪獣マニアの意気横溢。
年末に予定される下巻に更なる期待。

 

ラヴクラフトの怪物たち 上

ラヴクラフトの怪物たち 上

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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