スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』

スチュアート・タートン『イヴリン嬢は七回殺される』(三角和代 訳 文藝春秋 2019/8月刊) Kindle版 読。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910482 

イヴリン嬢は七回殺される

イヴリン嬢は七回殺される

 
イヴリン嬢は七回殺される (文春e-book)

イヴリン嬢は七回殺される (文春e-book)

 

森に囲まれた館・曰くありげな名家一族・仮面舞踏会・狙われる令嬢・タイムループ・人格転移…と 宛ら近年の国内若手本格ミステリ作家を思わせる特殊設定の坩堝感横溢。錯綜する展開があまりに複雑で 論理を納得しつつ追うのは前半途中で早くも断念せざるを得ず(鈍い頭がついていけずorz)。が読み進むうちに最大の眼目は寧ろ理屈を超えた眩惑性・酩酊感にこそありそうと得心。英国作家によるお屋敷舞台小説乍ら 悠長な衒学披歴や趣味談義に陥ったりすることなく 常に緊迫を孕ませる筆運びは 理解行き届かずも決して退屈を招かず好感。頭の切れ過ぎる名探偵が偉そうに裁くわけでないのも佳点。訳者あとがきで触れられているように 映画『インセプション』にも通じる時間世界への目くるめく冒険行 あるいは『不思議の国のアリス』的不条理への墜落感が 軈てはある種の陶酔にまで高まるかと思わせつつ その果てに ミステリ的な考え抜かれた意外性が待ち受けており感嘆(当然意外であろうとは予期し推測試みていたが その裏をかかれ)。

これだけの難解な筋立てを理路整然とした日本語に移した腐心が偲ばれるが 加うるに…──人格移動が頻繁に起こる物語と雖も原語では勿論一人称の自称は全て「I」に相違なく また言葉遣いも各人それほど大きな落差はなかろうが それらを邦文では言うまでもなく性別・年齢・社会的立場等によって表記に変化を持たせねばならないわけで ある意味原文以上の工夫が必要だった筈であり その点でも訳者の労が思いやられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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