紀田順一郎・荒俣宏 監修『幻想と怪奇 傑作選』

『幻想と怪奇 傑作選』(紀田順一郎荒俣宏 監修 新紀元社 2019/11月刊)読。

http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-1760-0/

↓ 本書(下段中央)と 旧『幻想と怪奇』誌原本──上段右から 5号メルヘン的宇宙の幻想/6号幻妖コスモロジー日本作家総特集/7号夢象の世界/8号オカルト文学の展開/下段右から 9号暗黒の領域/10号現代幻想小説/11号幽霊屋敷/12号ウィアード・テールズ。(※各号表紙の数字は月号の意で 通号の数とは異なる)

1~4号は目下室内探索中…

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伝説の専門誌『幻想と怪奇』(1973~74 三崎書房~歳月社)に掲載された小説を中心に評論・レビュー・コラム等まで重要作を選抜して集成した異色の傑作集。「休刊から四十五年の今日までに書籍に収録された作品は多く(中略)本書ではそれらに比べても遜色のない書籍未収録作を中心に選んだ」(牧原勝志「《前説》幻の雑誌、ふたたび」より)との配慮が特色。巻頭の紀田・荒俣 両監修者による序文は往時の新誌誕生前後の経緯を生々しく語る。創刊は両氏からの働きかけではなく 叢書『怪奇幻想の文学』(新人物往来社 69年発進)の成功に触発された版元側からの提案だったとの話(紀田)や 誌名は江戸川乱歩が自作短篇集のために考えたタイトルの拝借との告白(荒俣)等瞠目。
小説は以下の12篇。
A・E・コッパード「ジプシー・チーズの呪い」(鏡明 訳 創刊号 魔女特集より)……珍しいチーズ奇譚。/ H・R・ウェイクフィールド「闇なる支配」(矢沢真 訳 2号 吸血鬼特集より)……子供と子守女の異常性愛。/ ウォルター・デ・ラ・メア「運命」(紀田順一郎 訳 同号より)……皮肉の利いた掌篇。/ R・エリス・ロバーツ「黒弥撒の丘」(桂千穂 訳 3号 黒魔術特集より)……悪魔と美少年の契約。/ アン・ラドクリフ「呪われた部屋」(安田均 訳 4号 CTHULHU神話特集)……特集外作。ゴシック長篇『ユドルフォの秘密』抜粋。怪異と合理の並立が探偵小説先駆感。/ エルクマン・シャトリアン「降霊術師(カバリスト)ハンス・ヴァインラント」(秋山和夫 訳 5号 メルヘン的宇宙の幻想特集より)……フランスの合名作家。華麗なオカルト思弁と恐怖。/ メアリ・W・シェリー「夢」(八十島薫 訳 7号 夢象の世界特集より)……ゴシック風舞台と乙女の夢想。/ E・ランゲッサー「子供たちの迷路」(條崎良子 訳 10号 現代幻想小説特集より)……ドイツ作家。戦時背景の家族と子供の恐怖心。/ アルジャナン・ブラックウッド「別棟」(隅田たけ子 訳 11号 幽霊屋敷特集より)……幽霊以上の存在を思わす独自怪異観。/ 石川鴻斎「夜窓鬼談」(琴吹夢外 訳 6号 幻妖コスモロジー 日本作家総特集より)……明治の詩文家。澁澤・鏡花も底本としたという名著から抜粋の漢文和訳。鬼神・牡丹灯籠・冥府。/ 桂千穂「鬼火の館」(同号より)……著名脚本家兼怪奇翻訳家による創作。洋館に住む未亡人を見舞う心霊悲劇。/ 山口年子「誕生」(同号より)……現在は幻の作家となった女流名手。名家令嬢を襲う恐るべき運命。

以下は評論他。
紀田順一郎「人でなしの世界 江戸川乱歩怪奇小説」……乱歩「人でなしの恋」とM・R・ジェイムズ「ポインター氏の日録」の精細な対比論が白眉。/ H・P・ラヴクラフト「我が怪奇小説を語る」(団精二荒俣宏 訳)……書簡訳出紹介。HPL後年の某有名作の萌芽が示唆的。/ 落合清彦「日本怪奇劇の展開─闇の秩序を求めて─」……小平次皿屋敷等の江戸期怪奇劇から現代(=当時)のテレビ番組まで言及。/ 荒俣宏「閉ざされた庭─または児童文学とアダルト・ファンタシィのあいだ─」……残酷人形劇『パンチとジュディ』から説き起こす子供対大人幻想文学論。未訳期の『ゴーメンガースト』(M・ピーク)にも触れ。/ 草森伸一「胡蝶の夢─中華の夢の森へ(Ⅰ)」……中国古代詩集『詩経』から発する夢論。/ 秋山協介=鏡明「地下なる我々の神々 1~4」……口語体が小気味よいオカルト系アメリカ文化論。/ 「ホラー・スクリーン散歩」瀬戸川猛資『激突!』石上三登志『怪物団(フリークス)』……共に個性的視点の映画評。/ 「幻想文学レヴュー」山下武『ブラックウッド傑作集』(創土社)   石村一男『ベスト・ファンタジー・ストーリィズ』……訳書&洋書の書評。因みに前者は往年の名コメディアン柳家金語楼の子息。/ 麻原雄「挿絵画家アーサー・ラッカム」「囚われし人 ピラネージ」……共に刺激的美術紹介。実作図版多数。

小説評論共にいずれも今日でも啓発性大だが 敢えて個人的最印象を挙げれば「誕生」「地下なる我々の神々」「囚われし人 ピラネージ」か。

末尾に当時の寄稿者中3人の新稿掲載。桂千穂(インタビュー)「誰もやっていないことを」鏡明(エッセー)「『幻想と怪奇』という試みについて。」安田均(エッセー)「『幻想と怪奇』の時代」……其々濃密な述懐。「売れなかった」(桂)「早すぎたのかも」(鏡)「時期が早かったとは思えなかった」(安田)等 感慨差が面白し。

 

さらに巻末特別収録として 伝説の同人誌『THE HORROR』(1964 恐怖文学セミナー編集発行 全4号)を全巻復刻。紀田順一郎の解説によれば 同人 恐怖文学セミナーはSRの会を母体とし 紀田 大伴昌司 島内三秀(=桂千穂)の3人から成る由。訳出する海外作品は本邦初紹介を旨とし J・P・ブレナン「裏庭」等 後年『幻想と怪奇』(同誌に10年近くも先立つことに驚き!)に再録された作もあり またジョージ・ウェイト「死刑の実験」等 他で読めない珍しい作家も。なお紀田が最大の掲載目標としたと思しい平井呈一の翻訳とエッセーは先般の『幽霊島』(創元推理文庫)にも収録済。 

幻想と怪奇 傑作選

幻想と怪奇 傑作選

 

 

 

ところで新生『幻想と怪奇』誌が愈々今月22日同版元より創刊予定。1号は「ヴィクトリアン・ワンダーランド 英國奇想博覧會」特集と銘打ち マッケン/ストーカー/ウェルズ/ディケンズ/コリンズ/レ・ファニュら大家を始めとする傑作満載 不肖弊ブログ子も随一怪(奇?)作にて末席に。請御贔屓!

http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-1761-7/ 

幻想と怪奇 1 ヴィクトリアン・ワンダーランド 英國奇想博覧會

幻想と怪奇 1 ヴィクトリアン・ワンダーランド 英國奇想博覧會

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 新紀元社
  • 発売日: 2020/02/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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