井上雅彦『珈琲城のキネマと事件』(光文社文庫 2019/11月刊) 読。
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334779382
伝説的長篇『竹馬男の犯罪』(1993講談社ノベルス/2007復刊)以来四半世紀ぶりに上梓された本格ミステリーは 〈映画〉への愛と造詣をテーマとした連作短篇集(『ジャーロ』誌連載4篇+書き下ろし1篇)。都内某所に建つ風雅な趣(スパニッシュバロック式洋館)の元名画座喫茶店《薔薇の蕾》に集う強者常連客衆が 刑事・春夫と新聞記者・秋乃の持ち込む怪事件 奇事案を語りのみから解き明かす ある種の安楽椅子探偵譚集。
第1話「狼が殺した」……タイトル通り狼(狼男?)の仕業を思わす残虐な手口の密室殺人。ミスリード&伏線の妙が利き シリーズへの導入/紹介に相応しい一篇。
第2話「櫻屋敷の窓からは」……秋乃の友人の父が遂げた不可思議な最期。事件か否かも判とせぬ謎から過去の秘密が蘇る。満開の桜と飛鳥群のイメージ鮮やか。
第3話「赤い警官と未来の廃墟」……新客が語る幼時の不気味な〈赤いおまわりさん〉の記憶。映画・映像に絡んだトリックと相俟つ色彩感覚が読みどころ。
第4話「艶(あで)やかな骸骨のドレス」……天才的人形作家が招いた奇妙な出来事。体と心・生と死・美と醜…等の芸術的問題が映画をヒントに浮かびあがる。
第5話「蝙蝠耳と昭和のスマホ」……書き下ろし。深刻な事件はなくも『座頭市』『事件記者』等 往年のテレビ~映画に跨る名作への言及も楽しい余禄。
いずれも数多の蘊蓄が開陳され乍ら 決して徒に装飾的ペダントリ―に堕さず(所謂本格ミステリーにはなぜかその弊がままあるが)全て謎解き&筋運びの材として活かされているのが快し。映画を巡る智識は流石に多大で 高所的見地より寧ろ専門技術面への関心の深さが窺える点に屡々瞠目。各篇末尾に其々で言及された映像作品の紹介があり有益。『回転』『恐怖の足音』等 是非観たし。『サイコ』『鳥』『ロッキー』等 見方変わりそうな例も。
推理小説としての秀逸さにとどまらず 特有の詩情と郷愁が文章 作話 両面で味わえたのが何よりの収穫。作者が育った街東京の佳き情景描写も滋味。
〈ショートショート作家〉〈民俗学者〉〈記号論〉〈怪談系〉〈書店員〉〈グッズ屋〉〈怪奇俳優〉〈医学〉〈映写技師〉ら 愛すべき集団探偵との再会あれかし。
2/6には神田神保町奥地にて著者による刊行記念談話&サイン会開催。
https://note.com/yurarosa/n/n13ba45ab914e
今宵はSPINOR夜学ブックトーク
— 由良瓏砂*アートサロンカフェ哲学者の薔薇園 (@yurarosa) 2020年2月6日
井上雅彦『珈琲城のキネマと事件』
ご来場誠に有難うございました!
井上伯爵の映画への造詣の深さを改めて感じました。
昨日エクサさんでクロマキーのスタジオ見学させて頂いたの、ほんとタイムリーでした。
サインもちゃっかり頂いてしまいました。
書体が可愛い❤️ pic.twitter.com/93mkqTCH4O
.