東雅夫編『吸血鬼文学名作選』/ 東雅夫『小説推理』8月号書評「幻想と怪奇」〈今月のベスト・ブック〉『吸血鬼ラスヴァン』選出!

東雅夫編『吸血鬼文学名作選』(創元推理文庫) 読。

数多ある東雅夫氏編 怪奇幻想文学アンソロジーの中で 吸血鬼文学選集としては『屍鬼の血族』(桜桃書房)『血と薔薇の誘う夜に──吸血鬼ホラー傑作選』(角川文庫)『伝奇ノ匣9 ゴシック名訳集成 吸血妖鬼譚』(学研M文庫)等の他 雑誌関連でも『幻想文学 28号 特集 吸血鬼文学館──真紅のデカダンス』(幻想文学出版局)とその改題別冊化版『ドラキュラ文学館』(同)がある等 名作吸血鬼文学の紹介/発掘に多大な功績をあげてきた東氏が満を持して創元推理文庫に「東西吸血鬼文学の基調を成す一巻」(「編者解説」より)を加えたのが今般の新刊『吸血鬼文学名作選』。個人的には初の拙共編訳書『吸血鬼ラスヴァン 英米古典吸血鬼小説傑作集』(平戸懐古氏共編訳)から時を経ずして同版元より上梓された大先達の同分野企画として学ぶべきところ甚大。
解説によれば 同書編纂には本邦吸血鬼文学牽引者の1人だった故 須永朝彦氏への追悼の意味もある由で 巻頭/巻末諸篇にその趣旨が表わされている。以下収録各作。

須永朝彦「彼の最期」…作者歿後発見の掌篇。生原稿を敢えて複写掲載し「吸血鬼とは選ばれた美貌の種族」とする直截な美観を如実に伝える(活字版も併載)。
須永朝彦「三題噺擬維納風贋画集(さんだいばなしもどきウイーンふうにせぐわしふ)」…欧州/日本 空間超越3連作。クロロック公/百合男/薔薇子等 人名も華麗。
須永朝彦訳「死者の訪ひ」(スロヴァキア古謡)…不死者の恐怖を詠う古詩(原典にはある秘密が)。
菊地秀行×須永朝彦「対談 吸血鬼──この永遠なる憧憬」…吸血鬼界両雄の貴重交歓。トランシルヴァニア紀行から吸血鬼映画/小説談義へ。
菊地秀行「D──ハルマゲドン」…大河サーガ『吸血鬼ハンター"D"』外伝的短篇。鏤骨の散文詩風名文。
種村季弘「吸血鬼入門」…吸血鬼文学紹介先駆者の洒脱なコント風交流録。三島/澁澤/石原/瀬戸内の名も。
江戸川乱歩「吸血鬼」…吸血鬼=不死者=早すぎた埋葬を語るエッセイ。本邦初の吸血鬼文芸作品の由。
城昌幸「吸血鬼」…エジプト出自の謎めく女吸血鬼譚。
柴田錬三郎「吸血鬼」…同じく女吸血鬼譚乍ら猟奇凄愴酸鼻の極み。
日影丈吉「吸血鬼」…戦時アジアの妖気濃厚なこれまた女吸血鬼物。
都筑道夫「夜あけの吸血鬼」…ブラックユーモア含みの独特文体が効果的な凄艶母娘吸血鬼噺。
小泉八雲/平井呈一訳「忠五郎のはなし」…八雲が語る江戸期の女怪──而してその正体は?
日夏耿之介「恠異(くわいい)ぶくろ(抄)」…日夏が説くディオダティ荘顛末とその周縁。
ジョージ・ゴードン・バイロン/南條竹則訳「断章」…『吸血鬼ラスヴァン』所収「吸血鬼ダーヴェル」に相当する先行訳。
●ジョン・ポリドリ/佐藤春夫訳「バイロンの吸血鬼」…『吸血鬼ラスヴァン』所収表題作に相当。『犯罪公論』初出時(1932)の木村荘八挿画復刻。
●テオフィール・ゴーチエ/芥川龍之介訳「クラリモンド」…仏文女吸血鬼名作。『吸血鬼ラスヴァン』所収クロフォード「カンパーニャの怪」への影響如何に?
●マルセル・シュウオッブ/矢野目源一訳「吸血鬼」…小篇乍ら絢爛濃密な吸血鳥譚名品。
須永朝彦編「小説ヴァン・ヘルシング」…本家『吸血鬼ドラキュラ』を踏襲するかのように日記/書簡等で構成されたヘルシング誕生記録──がその真実は?
深井国「ドラキュラへの慕情」…挿画界大家が70年代に描いた耽美的吸血鬼イメージ小画集。

多彩な女吸血鬼の横溢等 本邦斯界創作史の豊饒を今にして痛感。編者に今後願わくは 現状古書入手難となっている『伝奇ノ匣9 ゴシック名訳集成 吸血妖鬼譚』 に初復刻されたガストン・ルルーの一大傑作「吸血鬼」(池田眞訳)の再録を何れの日にかと。
なお3年ほど先んじて刊行された『幽霊島 平井呈一怪談翻訳集成』(藤原編集室編)には平井呈一訳ポリドリ「吸血鬼」(佐藤春夫訳「バイロンの吸血鬼」/ 平戸懐古訳「吸血鬼ラスヴァン」に相当)が収録されており 同一版元より同一作品の翻訳3種が相次ぎ世に出るという稀なる快事実現。

 

 

 

その東雅夫氏が『小説推理』8月号書評「幻想と怪奇」〈今月のベスト・ブック〉として『吸血鬼ラスヴァン』選出! (※ ↓ Web版)

【『吸血鬼ラスヴァン』の主眼は、『ドラキュラ』以前に書かれた吸血鬼小説(中略)の復権にある。】【本書の意義は大きいと云わざるをえない。】【とりわけ(中略)「黒い吸血鬼」(中略)「カンパーニャの怪」(中略)「魔王の館」あたりは、とにもかくにも必読。】と絶賛の嵐!!
また氏自身編纂の『吸血鬼文学名作選』紹介の中では【秘かな目玉と位置づけているのが、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲の短篇「忠五郎のはなし」だ。】【〈吸血鬼不在〉と考えられてきた我が国において、おそらくは唯一の吸血鬼譚と云いうる物語なのだ。】【八雲によって見出されることを予期したかの如き、驚くべき物語である。】とのことで要刮目。

東氏に深謝 &『吸血鬼文学名作選』『吸血鬼ラスヴァン』共々に請フ御贔屓!

↓ 『吸血鬼文学名作選』(下段中央)と関連書籍群の一部が列席。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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