デイヴィッド・ピース『Xと云う患者 龍之介幻想』

河童忌(7/24)には間に合わなかったが…  デイヴィッド・ピース『Xと云う患者 龍之介幻想』(黒原敏行 訳 2019/3月刊 文藝春秋)Kindle版 読。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910017

Xと云う患者 龍之介幻想

Xと云う患者 龍之介幻想

 

 

コラージュ的or幻想現実交差等の見方も勿論できるが その実徐々に新しい形の伝記小説の趣を強くしていき 分散感よりも意外に直線的な物語と読め 芥川龍之介の不安と狂気に彩られた人生にいつしか暗然と入り込ませられ この偉才が35歳の夭折であることに改めて驚き。不徳にも教科書掲載を始めとする有名諸作にしか触れてこなかったため 本書を読む過程で未読作を漁れたのは今更に収穫。とくに全く未知だった「堀川保吉物」と呼ばれる一連の作群が電子書に纏められていたのには助けられ。この保吉なる男は芥川の分身と目される人物だが 文人らしい自我の危うさに苛まれ乍らもどこか飄然としたユーモアを湛え 夏目漱石吾輩は猫である』の苦沙弥先生に一縷通じる部分も。がその背後に潜む暗鬱は深く『河童』『歯車』等の異常境との相関or直結をそこはか窺わせもする。芥川の死が大正文化の終末を告げたとされる観が 現在状況の中で本書が刊行された意味を示唆するとも思えるが それは時代の変わり目と言うよりも 実は「変わらない」時代の危機感をこそ仄めかしているのかも──同作者による『TOKYO YEAR ZERO』シリーズがそうであったように…などと。訳文は敢えて芥川本人の文体を彷彿させるべく工夫され 趣向精神に感心すると同時に苦心が偲ばれ。漢字 片仮名語の表記法に至るまでここまで凝るなら いっそ全文旧仮名でやってもよかったのではとすら。傑作にして問題作。

 

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河童忌に百圓合羽藪の中       鵺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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