A・М・バレイジ怪談傑作集『誰かがいる部屋』(植草昌実編訳/新紀元社)読。
http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-2292-5/

20世紀前半の英国で活躍した作家A・М・バレイジことアルフレッド・マクレランド・バレイジの本邦独自編纂短篇傑作集(紙版の書籍としては初)。全13篇中初訳作11篇。
編訳者の解説に拠れば、作者バレイジは主に短篇小説で多分野に於いて非常に多作な作家だったが、生前に刊行された作品集は2冊のみだった由(内1冊は別名義)。歿後は「ほとんど忘れ去られてしまっているようだが、怪奇小説だけは一九八〇年代以降、再評価されている」が、「作風の幅広さはまだ知られていない。そこで本書では(中略)多彩さを第一に作品を選んでみた」とのこと。巻末に各篇解題があるのが親切。以下収録作其々について。
「間違った駅」……奇妙な駅・不思議な街・愛らしくも不気味な子供たち──郷愁感漂う幻視譚。
「誰かがいる部屋」……部屋憑きの幽霊となった人物の不穏さに戦慄。
「山査子(さんざし)の木」……人の命の脆さと樹木の生命力の怪しさの対比が鮮烈。
「パドック・クロスでの出来事」……馬車の事故を契機とした不可解譚。見知らぬ過去の記憶。
「小さな青い火」……怪異を呼ぶ真鍮の燭台。骨董奇談。
「無罪判決」……殺人裁判で無罪となった男の周辺に異変が──ミステリー味ある祟り話。
「ブローディーン荘」……古いカントリーハウスでの迫真の心霊現象。
「一夜かぎり」……寄席芸人が語る珍しい大衆芸能怪談。
「クリスマスの幽霊物語」……幽霊を信じない新聞記者が幽霊物語を書けと指示され──巧みな設定の妙。
「博奕(ばくち)打ちの部屋」……ギャンブラーの前に顕われたのは霊か魔か──奇矯な博奕幻談。
「子供は大人の父なり」……少年はこの世ならぬ者なのか、それとも?──懐旧学園譚。
「グレニスター街の庭園」……庭園に出現した謎の存在〈それ〉とは?──子供時代の不可思議な想い出。
「遊び友達」……初老男性の視点から綴る少女のイマジナリーフレンド譚。バレイジの最有名作品。
編者の目論見通り、テーマ・設定・舞台・人物・展開・語り口・善/悪・悲劇性/ジェントル性……等々諸面で多彩さが際立つ構成だが、概して通底するものは〈郷愁〉と呼べるかもしれない。それは怪談と好相性の側面であり、そこへの巧みな演出ぶりは作品集を組みたくなる編者への共感を誘う。敢えて個人的最好感作を挙げるなら、邦題の適切さも活きた「クリスマスの幽霊物語」/ 幽霊屋敷譚の一典型「ブローディーン荘」/ もう一つの準通底要素である〈子供〉テーマの代表例「遊び友達」等。
ところでバレイジの本邦独自傑作集の唯一の前例として仁賀克雄編訳『ありふれた幽霊』(HM出版/2020年刊/電子書籍)があるが、実のところ同書が配信されて間もない時期にKindle版で入手していた。当時知人に誘われてイラストレーターYOUCHAN氏の作品展示会を訪問した折、偶々会場に居合わせた青井美香氏より、同氏の夫君川村均氏(※夫妻共に僅か乍ら面識あり)が早川書房を辞したのち自らHM出版を立ち上げて『ありふれた幽霊』を初刊行物としたことを聞き知って記念に購入したが、面目ないことにそのまま積読(積んではいないが)になっていた次第。そこでこの機に今更乍ら同書をも通読し、そちらもまたバレイジの特色が表わされた作品集と感得。マニア(怪談玄人筋)受け作家とは一味異なる一般性/独自性を見出し称揚する故・仁賀氏の先見に敬服。
A・М・バレイジ怪談傑作集『誰かがいる部屋』は編訳者植草昌実氏より拝領 深謝!
因みに……カバーの写真甚だ怖し(装丁 久留一郎)。
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