A・М・バレイジ『誰かがいる部屋』

A・М・バレイジ怪談傑作集『誰かがいる部屋』(植草昌実編訳/新紀元社)読。

http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-2292-5/

20世紀前半の英国で活躍した作家A・М・バレイジことアルフレッド・マクレランド・バレイジの本邦独自編纂短篇傑作集(紙版の書籍としては初)。全13篇中初訳作11篇。

編訳者の解説に拠れば、作者バレイジは主に短篇小説で多分野に於いて非常に多作な作家だったが、生前に刊行された作品集は2冊のみだった由(内1冊は別名義)。歿後は「ほとんど忘れ去られてしまっているようだが、怪奇小説だけは一九八〇年代以降、再評価されている」が、「作風の幅広さはまだ知られていない。そこで本書では(中略)多彩さを第一に作品を選んでみた」とのこと。巻末に各篇解題があるのが親切。以下収録作其々について。

 

「間違った駅」……奇妙な駅・不思議な街・愛らしくも不気味な子供たち──郷愁感漂う幻視譚。

「誰かがいる部屋」……部屋憑きの幽霊となった人物の不穏さに戦慄。

「山査子(さんざし)の木」……人の命の脆さと樹木の生命力の怪しさの対比が鮮烈。

「パドック・クロスでの出来事」……馬車の事故を契機とした不可解譚。見知らぬ過去の記憶。

「小さな青い火」……怪異を呼ぶ真鍮の燭台。骨董奇談。

「無罪判決」……殺人裁判で無罪となった男の周辺に異変が──ミステリー味ある祟り話。

「ブローディーン荘」……古いカントリーハウスでの迫真の心霊現象。

「一夜かぎり」……寄席芸人が語る珍しい大衆芸能怪談。

「クリスマスの幽霊物語」……幽霊を信じない新聞記者が幽霊物語を書けと指示され──巧みな設定の妙。

「博奕(ばくち)打ちの部屋」……ギャンブラーの前に顕われたのは霊か魔か──奇矯な博奕幻談。

「子供は大人の父なり」……少年はこの世ならぬ者なのか、それとも?──懐旧学園譚。

「グレニスター街の庭園」……庭園に出現した謎の存在〈それ〉とは?──子供時代の不可思議な想い出。

「遊び友達」……初老男性の視点から綴る少女のイマジナリーフレンド譚。バレイジの最有名作品。

 

編者の目論見通り、テーマ・設定・舞台・人物・展開・語り口・善/悪・悲劇性/ジェントル性……等々諸面で多彩さが際立つ構成だが、概して通底するものは〈郷愁〉と呼べるかもしれない。それは怪談と好相性の側面であり、そこへの巧みな演出ぶりは作品集を組みたくなる編者への共感を誘う。敢えて個人的最好感作を挙げるなら、邦題の適切さも活きた「クリスマスの幽霊物語」/ 幽霊屋敷譚の一典型「ブローディーン荘」/ もう一つの準通底要素である〈子供〉テーマの代表例「遊び友達」等。

 

 

ところでバレイジの本邦独自傑作集の唯一の前例として仁賀克雄編訳『ありふれた幽霊』(HM出版/2020年刊/電子書籍)があるが、実のところ同書が配信されて間もない時期にKindle版で入手していた。当時知人に誘われてイラストレーターYOUCHAN氏の作品展示会を訪問した折、偶々会場に居合わせた青井美香氏より、同氏の夫君川村均氏(※夫妻共に僅か乍ら面識あり)が早川書房を辞したのち自らHM出版を立ち上げて『ありふれた幽霊』を初刊行物としたことを聞き知って記念に購入したが、面目ないことにそのまま積読(積んではいないが)になっていた次第。そこでこの機に今更乍ら同書をも通読し、そちらもまたバレイジの特色が表わされた作品集と感得。マニア(怪談玄人筋)受け作家とは一味異なる一般性/独自性を見出し称揚する故・仁賀氏の先見に敬服。

 

 

A・М・バレイジ怪談傑作集『誰かがいる部屋』は編訳者植草昌実氏より拝領 深謝!

因みに……カバーの写真甚だ怖し(装丁 久留一郎)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『非実在探偵小説研究会 30号』ゴシックミステリ特集

『非実在探偵小説研究会 30号』(2025/11 エアミステリ研究会発行)読。

https://c.bunfree.net/p/tokyo41/56999

根倉野蜜柑氏より昨年終盤に拝領するもここでの記録が今更となり忸怩。

今号のメイン特集はゴシックミステリ創作で殊更に要注目。

◎競作ゴシックミステリ
●麻里邑圭人「黒き祈りの果てに、君とまた出会えたら」
16歳の富豪令嬢が礼拝堂て殺害される。余命短いにも拘らず仕掛けによって狙撃されたのは何故か? 探偵役が登場し、終局の意想外な展開が白眉。

●メイム・モーリニ「再生」
舞台英国、登場人物全員イギリス人。片脚切断、整形外科医、義足、「再生」というタイトル、等の要素からある予測が働くが果たして……?  中盤の殺人事件はある種の密室か。

●神崎蒼夜「金切り屋敷の怪事件」
女子高校舞台。幽霊の見える「私」は不良少女クループに連れられ幽霊屋敷へ肝試し、1人が死体で発見される。幽霊&死後界が実在する設定が効果的。

●根倉野蜜柑「一八七五、コペツキー連続殺人」
先行作「一八七二、聖リューク療養所」(本誌21号掲載)に次ぐ『黒死館殺人事件』前日譚。プラハ舞台の人形連続殺人。本家に迫らんとする衒学と幻想の目眩く中篇力作オマージュ。

●佐倉丸春「青髭卍」
記憶喪失の女が書く青髭テーマの小説。その中には青ひげの童話、外には蒼髯めく作者が。入れ子と妻殺しはゴシックに相応しい。

◎怪奇幻想ミステリ50選
創作のゴシック特集と併せての怪奇幻想ミステリのレビュー企画は好相性。内外総じて50近く(シリーズ物等含め)を紹介。驚くのは寄稿者の数の多さと其々の筆致の熱度の高さ(批判優先の冷えたレビューを嫌う目には非常に新鮮)。この種の観点でなければ激推しされにくそうな分野だけに極めて有益。個人的にはスレイド『髑髏島の惨劇』/CBブラウン拙訳短篇の採り上げに雀躍。

◎《怪奇幻想ミステリ》の過去・現在・そして未来
千街晶之(『怪奇幻想ミステリ150選』著者)ロングインタビュー。上記怪奇幻想ミステリレビュー特集の併企画。この分野への著者の並々ならぬ深耕に改めて感嘆。

◎飛鳥部勝則『抹殺ゴスゴッズ』読書会
有志5人による30ページ以上に及ぶ長尺座談会。現在最注目作家への各自偏愛ぶりに瞠目。

◎松井和翠『松井和翠=責任編集 推理小説批評大全【増補改訂版】』序文
今般(2026/5)の文学フリマにて頒布の当該書序文の由。力筆。

◎ショートショート競作『推理クイズ』
麻里邑圭人(3篇)/ソルト佐藤/神崎蒼夜/足住公達による6短篇。各作直後に解決篇があるのが親切。

総じて全企画共高濃度が圧倒的。個人的に最近疎遠になりつつあった本格ミステリに改めて羨望の感。

 

根倉野蜜柑氏に深謝!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ホレス・ウォルポール『妖精の物語、その他の物語』/『こ・めでぃうむ ver.20241201』

ホレス・ウォルポール著『妖精の物語、その他の物語』(平戸懐古訳 懐古文庫 2025.5.11)読。

同じホレス・ウォルポールの『象形文字譚集』(20180513/1526141633)に次ぐ本邦初訳小作品集で、表題作の他4組を収録。以下各篇について。
「妖精の物語」……同人誌『こ・めでぃうむ ver.20180506』にて初出の作。上記ブログでも紹介したようにアヒルの世界が舞台だが、原註によれば英国貴人社会の実話を基にしている由。ダックス島のフィップス王子が外界での修養ののち島に呼び戻され既に決められていた婚姻へと向かう。現実の貴族社会をアヒルや妖精等に置き換えた諧謔譚。
「倫敦在住の中華の鉄人ゾー・ホーから、北京在住の友人リエン・チーへの手紙」……タイトルの通り在英中国人が英国政界・社会を外国人にとっては異様なものと捉えて母国に報告する。
「最近発見された巨人の報告  田舎の友人への手紙からの抜粋」……〈巨人〉族の生存が確認された島に英国は如何に対処・進出すべきかを考察する書簡体で、解題によれば巨人の住む島とは新大陸アメリカの寓意とのこと。『オトラントの城』後の作だが巨人のモチーフは同作との連関もありそう。
「自然の勝利  一幕の道徳劇」……妖精を含む四人の男女の台詞から成る小戯曲。孤島に漂着した二人の男たちが島の女たち(含妖精)に対し奇矯且つ身勝手に振る舞う。解題によればこれまた新大陸対策への皮肉味が含まれている模様。
「寓話詩三題・謎かけ三題」……「百獣の女王の葬儀」は死んだライオン女王の弔いの様相。「限嗣相続(エンテイル=継嗣のいない貴族が特定他者に遺産譲渡する制度)」は作者自身の遺産問題を虫の世界になぞらえる。「烏鵲(カササギ)とその雛鳥たち」は母鳥の子育ての苦心とその成果。三篇とも人生の重要局面を鳥獣戯画化した趣。「限嗣相続」については解題での『オトラントの城』との関連性指摘が示唆的。「謎かけ三題」はスフィンクスの謎々風のシンプルな鋭さが小気味よし。
以上総じてゴシックロマンス始祖のみにはとどまらないウォルポールの意外な諸面が開陳されている。訳者が述べているようにその基調は〈風刺〉にあり、同時に後代の異能作家ボルヘスにも通じる博識型奇想の文学化とでも言うべき面も窺える。巻末解題の精緻さに感嘆。

『こ・めでぃうむ ver.20241201』(編集 平戸懐古 発行 れうにおん 2014.12.1)読。特集テーマ〈虚〉。サイラス・ウィア・ミッチェル「ジョージ・デドローの症例」(平戸懐古訳)……作者は幻肢痛の発案者として知られる19世紀米国の医師で、当作はまさにその概念をテーマにすると同時に、江戸川乱歩某問題作のアメリカ版変奏とも読める異貌の怪奇短篇。根倉野蜜柑「文学的にありえない」……創作力篇。大学内での幽霊出現と自殺者との関連を探偵的に追跡した末にある解決が導き出されるが──というホラーとミステリの融合性が鮮やか(ラストには慄然)。ノノ蔵「空洞人間にわ気をつけて」……食屍鬼(グール)に体内を食われて空洞になった男が人を襲うホラーギャグ漫画。特集書評は平戸懐古(竹本健治の中の失楽』『闇に用いる力学』他)/月見月(綾里けいし『悪食姫』)/TKG(加地葵『あるモナド』)/根倉野蜜柑(ウィリアム・フォークナー響きと怒り』他英米文学諸作)。いずれも〈虚〉テーマに基づくレビュー評論。特集外作……ノノ蔵「目呂備肉」は謎の伝承食物を巡る力作グロホラー漫画。

『妖精の物語、その他の物語』『こ・めでぃうむ ver.20241201』は共に平戸懐古氏より拝領 深謝!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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J・T・ロジャーズ『止まった時計』/ 法月綸太郎氏の推薦文について

2024/9月 国書刊行会《ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ・コレクション》全3巻の第1回配本『止まった時計』(The Stopped Clock by Joel Townsley Rogers 1958)が発売され 法月綸太郎氏が以下のような推薦文を寄せてくれました。

【探偵役の顕現とともに眠っていた物語が覚醒し、意外すぎる犯人が名指された後もさらなる驚異が読者を翻弄する……。時間と視点を手玉に取る《叙述の曲芸師(パルプ・ジャグラー)》が技巧の限りを尽くしたワイドスクリーン走馬灯ミステリ。】

この素晴らしくも謎めいた推薦文につき 弊ブログ子が調べた限りを以下に記します。まず版元からの伝聞によれば 法月氏はこの推薦文の原稿送付と共に「「ワイドスクリーン・バロック」のミステリ版というニュアンスです」と付言した由。この「ワイドスクリーン・バロック」なる語はSF界ではポピュラーな模様で 造語者とされるイギリスのSF作家ブライアン・オールディスの長編評論『十億年の宴』(東京創元社)中の以下の文が人口に膾炙する契機となったとのこと。

 この長編(※弊ブログ子註=チャールズ・L・ハーネス『パラドックス・メン』を指す)は、十億年の宴のクライマックスと見なしうるかもしれない。それは時間と空間を手玉に取り、気の狂ったスズメバチのようにブンブン飛びまわる。機知に富み、深遠であると同時に軽薄なこの小説は、摸倣者の大軍がとうてい摸倣できないほど手ごわい代物であることを実証した。この長編のイギリス版に寄せた序文で、私はそれを《ワイド・スクリーン・バロック》と呼んだ。これと同じカテゴリーに属する小説には、E・E・スミス、A・E・ヴァン・ヴォークト、そしておそらくはアルフレッド・べスターの作品が挙げられよう。しかし、ハーネスの小説には、ネパールの君主の飲み物、ウイスキー・アンド・シャンパンのように、独特のピリッとした味がある。(ブライアン・オールディス『十億年の宴』浅倉久志訳より)

 

また『十億年の宴』に続くオールディスの共著評論『一兆年の宴』(東京創元社)の巻末解説で山岸真氏が以下のように述べています。

 日本では『十億年の宴』が訳された際に大いに話題になり、"SFの醍醐味"の代名詞ともなったワイド・スクリーン・バロック。もとはオールディスが、チャールズ・ハーネスの作品を形容するために使った用語であり、その際にE・E・スミス、A・E・ヴァン・ヴォークト、アルフレッド・べスターの名前が引きあいに出されている。日本ではバリントン・J・ベイリーやクリス・ボイスの『キャッチワールド』(1975)もこう呼ばれているが、どうもこの用語がSFファンのあいだで広く知られているのは、日本独自の現象らしい。
 とはいえ、(中略) なんといってもハーネスのワイド・スクリーン・バロックは、「『十億年の宴』のクライマックス」だったのだ。(ブライアン・オールディス/デイヴィッド・ウィングローヴ『一兆年の宴』山岸真氏による解説より)

 

さらには近年になって 肝心の当該作品であるハーネス作『パラドックス・メン』が邦訳刊行され(竹書房文庫)訳者中村融氏が同書あとがきで上掲の『十億年の宴』でのオールディスの文を紹介した上で次のように解説しています。

 ところで、オールディスの文章に「ワイドスクリーン・バロック」という言葉が出てきた。これはオールディスの造語で、「純粋なSF」、つまりSFのひとつの理想型をさす言葉だ。アルフレッド・べスターやバリントン・J・ベイリーの作品を語るさい、かならずといっていいほど出てくるので、聞き憶えのある方も多いだろう。その特徴についてオールディス本人はつぎのようにいっている──
ワイドスクリーン・バロックでは、空間的な設定に少なくとも全太陽系ぐらいは使われる──アクセサリーには、時間旅行が使われるのが望ましい──それに、自我の喪失などといった謎に満ちた複雑なプロット。そして、"世界を身代金に"というスケール。可能と不可能の透視画法がドラマチックに立体感をもって描き出されねばならない。偉大な希望は恐るべき破滅と結びあわされる。登場人物は、理想を言えば、名前が短く、寿命もまた短いことが望ましい」(安田均訳) 
 この特徴は本書(※弊ブログ子註=チャールズ・L・ハーネス『パラドックス・メン』を指す)にぴったり当てはまるわけだが、これは当然の話。というのも、オールディスは本書の作風を説明するためにワイドスクリーン・バロックという言葉を発明し、似た作風の作品を系譜化して、ひとつの概念を作りあげたのだから。(チャールズ・L・ハーネス『パラドックス・メン』中村融氏による訳者あとがきより)

 

また中村氏は同じあとがき中で 当該語が初めて使われた『パラドックス・メン』イギリス版でのオールディスによる序文の一部を自ら試訳紹介しています↓。

「こうした純粋なSFは、ワイドスクリーン・バロックとしてカテゴライズできるかもしれない。プロットは精妙で、たいてい途方もない。登場人物は名前が短く、寿命も短い。可能なことと同じくらい易々と不可能なことをやってのける。それらはバロックの辞書的な定義に従う。つまり、すばらしい文体(スタイル)よりもむしろ大胆で生き生きとした文体をそなえ、風変わりで、ときにはやり過ぎなところまで爛熟する。ワイドスクリーンを好み、宇宙旅行と、できれば時間旅行を小道具としてそなえており、舞台として、すくなくとも太陽系ひとつくらいは丸ごと使う」

これは中村氏自身が引用紹介している上掲の安田均氏の訳による文と共通する文脈であり 両文の相互関係は未詳ですが ともあれこの語が示唆する世界観がいずれからも窺えると同時に 法月氏がこの語を『止まった時計』への評言に用いた意図も汲みとれてくるように思われます。とくにオールディスの「時間と空間を手玉に取り」を「時間と視点を手玉に取る」と援用したのは言い得て妙。SFにも精通する氏の読解の深甚さにあらためて敬服した次第。
ちなみに弊ブログ子はこの機に『パラドックス・メン』を初読し まさにワイドなスクリーンで空間/時間を手玉に取る本家のバロックぶりに感嘆。
以上 心ある読者へのご参考迄。

(※上に引用した各文で「ワイドスクリーン・バロック」「ワイド・スクリーン・バロック」等表記差がありますが それぞれの原文のままとしました。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『幻想と怪奇 14 ロンドン怪奇小説傑作選』読

『幻想と怪奇 14 ロンドン怪奇小説傑作選』(牧原勝志編 新紀元社 2023/11月刊) 読。

http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-2117-1/

装画 ひらいたかこ  装丁 YOUCHAN

新版『幻想と怪奇』シリーズ開始から旧版を超える13巻(他に別冊2巻)を経て今号より新機軸。「『幻想と怪奇』をより自由でより柔軟な想像力の場にするために」(巻末「not exactly editor」より)一段と多彩な企画を推進していく由、その第一弾として都市空間ロンドンの怪奇幻想を特集。

●巻頭「ロンドン怪奇小説地図」──古今名作群の舞台をロンドン地図で紹介するカラー口絵。
●H・R・ウェイクフィールド「アッシュ氏の画室(アトリエ)」(1932)──バッキンガム宮殿に近いロンドン最中心部の怪。謎の蛾群。
レティスガルブレイス「失踪したモデル」(1893)──王立芸術院に絡む絵画幽霊譚。
●シャーロット・リデル「ヴォクソール・ウォークの古い家」(1882)──ヴィクトリア朝貧民街の恐怖。
H・G・ウェルズ「白い塀の緑の扉」(1906)──大都市に潜む異界への扉口。
グレアム・グリーン「館内は無人」(1947)──映画館の奇譚。巨匠のショートショート
●ミュリエル・スパーク「名高き詩人の家」(1966)──駅に纏わる奇妙な話。不条理譚。
●トマス・バーク「街外れの奇跡」(1935)──不思議な力を持つ老人。皮肉な幕切れ。
●ロバート・エイクマン「哀れなる友」(1966)──国会議事堂を舞台とする珍しい政治怪談。力作中篇。
●J・D・ベレスフォード「霧の無人駅」(1918)──駅・霧・別世界を描く掌篇。
井上雅彦「緑の聖地」──異形のロンドン・ツアー。個人的注目は幽霊屋敷バークリー・スクエア50番地への言及。
●織守(おりがみ)きょうや「同居人」──実話風ハウスシェア奇談。作者はロンドン生まれの由。
●朝宮運河「乱反射するイメージ──日本におけるロンドン怪奇幻想文学の系譜」──漱石「倫敦塔」に始まり 青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス』シリーズにまで至る和製倫敦幻想の潮流概観。

以上 1世紀近いスパンでの多様な切り口のロンドン物語群集成は壮観。新触発の源泉と期待。

特集外では──西聖(さとし)と粕谷知世の創作/朝松健の連作小説(今回より毎号)/斜線堂有紀の映画評(今回より毎号)/木犀あこの短篇小説評(新連載)/日向空海(うつみ)の評論/他 書評&情報欄も充実。個人的にはとくに粕谷作大正幻視譚に瞠目。


※今年刊行の弊ブログ子編『ロンドン幽霊譚傑作集』(創元推理文庫)は期せずして今号と同テーマ(但しヴィクトリア朝限定) 上記バークリー・スクエア50番地舞台作も収録。共々に請フ御贔屓!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ロンドン幽霊譚傑作集』発売!(※追記訂正ご報告あり)

ウィルキー・コリンズ/イーディス・ネズビット他『ロンドン幽霊譚傑作集』(創元推理文庫)2月末発売! 請フ御贔屓!

【※重要】本書編者あとがき及び収録各作扉裏ページでの作者/作品紹介中に以下の誤情報記載がありましたので 弊ブログにてご報告しますと共に 読者の皆様並びに関係各位に陳謝申しあげます。

本書では収録13篇中12篇が本邦初訳と銘打っていますが、当該作のうちダイナ・マリア・クレイク「C─ストリートの旅籠」がダイナ・マロック「窓をたたく音」として松岡光治編訳『ヴィクトリア朝幽霊物語 短編集』(アティーナ・プレス)に訳出収録されていました(現在編訳者によりネット上にて無料公開中)。

また本書では6作家(共作2作家含む)を本邦初紹介作家と謳っていますが、上述のダイナ・マリア・クレイクは明治期から複数の長篇小説が翻訳されており、尚且つ近年でも上記「窓をたたく音」の他に、短篇「旅のマント」が青土社〈妖精文庫〉シリーズ第4巻『旅のマント』に訳出収録されています。
もう1組、「令嬢キティー」を共作したウォルター・ベサント&ジェイムズ・ライスにつきましては、短篇「ルークラフト氏の事件」がピーター・ヘイニング編『ディナーで殺人を』(創元推理文庫)に訳出収録されており、またベサント単独による長篇小説 Armorel of Lyonesse(1890)が大正期に黒岩涙香訳『島の娘』と題して刊行され、且つまた同翻訳の縮約版を渡辺温が補筆した中篇「島の娘」が渡辺温作品集『アンドロギュノスの裔(ちすじ)』(創元推理文庫)に収録され 並びに同人出版による単行本『島の娘』(東都我刊我書房)として復刊されています。

以上により、本邦初訳作12篇としたのは誤りで11篇が正しく、また初紹介作家は6人ではなく3人が正しい、ということになります。ひとえに編訳者夏来の調査不足と不行き届きを原因とする誤情報でしたので、重ねてお詫び申しあげます。

※追記: 本書カバー袖に列記しました作者名につきましても、下記の通り2点誤記がございましたので併せてご報告しお詫び申しあげます。

エドワード・メイジー → 正 エドワード・マーシー

誤 ウォルター・ビーサント → 正 ウォルター・ベサント

 

※追記(2024.4.5) 読者の方からのご教示により 本書において本邦初訳としながら既訳の存在した作品がもう1篇あることが判りましたので、追記にてご報告申します。メアリ・ルイ―ズ・モールズワース作「揺らめく裳裾」は J.ジョイス、W.B.イェイツほか『妖精・幽霊短編小説集 『ダブリナーズ』と異界の住人たち』(下楠昌哉編訳 平凡社ライブラリー 2023/7月刊)に メアリー・ルイ―ズ・モールズワース「さざめくドレスの物語」として訳出収録されていました。遅延し恐縮ですが 重ねてお詫び申しあげます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『幻想と怪奇 13 H・P・ラヴクラフトと友人たち』

『幻想と怪奇 13 H・P・ラヴクラフトと友人たち』(牧原勝志編 新紀元社 2013/3月刊)

http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-2078-5/

装画 ひらいたかこ 装丁 YOUCHAN

旧『幻想と怪奇』誌(三崎書房/歳月社1973~74)の全12号をついに超えて13号の刊行成った新編『幻想と怪奇』。今号は満を持しての初特集となるラヴクラフトアーカム・ハウスをテーマとし かの特殊書肆の意義を実作品群によって掘り下げている点が特筆。ラヴクラフトおよび親しい友人作家たち/歿後HPL書を刊行し作家としても後継したダーレスとワンドレイ/その流れを現代にまで書き継いだ作家たち/影響下にある日本作家代表格たち──の万全構成。

H・P・ラヴクラフト 断章二題「魔の書」「月下に佇むもの」……アーカム・ハウスによってこそ日の目を見得たHPLの文字通りの断章作品。短くも異世界描写と妖異の怪奇性は教祖的片鱗如実。新訳担当は『吸血鬼ラスヴァン』『英国クリスマス幽霊譚傑作集』で共編共訳を仰いだ平戸懐古氏。
ヘンリー・S・ホワイトヘッド「成らず神」……西インド諸島を舞台とする個性発揮の医学ホラー。
クラーク・アシュトン・スミス「死者たちの惑星」……異才躍如の絢爛天文幻想記。
フランク・ベルナップ・ロング……「闇に潜むもの」……魔女伝説の地セイレム舞台のユーモア篇。
オーガスト・ダーレス「川風の吹くとき」……濃厚怪奇のサスペンス幽霊譚。「ラヴィニア」の名にはニヤリ。
オーガスト・ダーレス「鏡の中の影」……3人姉弟と亡伯母のグロテスクな愛憎劇。
ドナルド・ワンドレイ「塗りつぶされた鏡」……鏡とアイデンティティを巡る幻視。
ドナルド・ワンドレイ「赤い脳髄」……16歳(!)若書きの遠未来宇宙SF。G・イーガン思わす難解世界。
ロバート・ブロック「斧の館」……セミコメディタッチの見世物幽霊屋敷録。名調子訳文(植草昌実)。
ジョセフ・ペイン・ブレナン「チルトン城の恐怖」……ゴシック風城館の奥に潜む怪異は凄絶の極み!
ベイジル・コッパー「洞窟」……アーカム・ハウスに関係した英国作家の一角による洞窟怪奇。
ラムジー・キャンベル「深淵」……同じく英国の現役重鎮。小説家を蝕む現代的恐怖と狂気。
黒史郎琥珀色の海」……気鋭によるHPL&MYTHOSへの濃密オマージュ。
井上雅彦「ルルの楽園」……自家薬籠の懐旧美溢れるアミューズメントパークMYTHOS。
朝松健「黒い森のリア」(連作《ベルリン警察怪異録》第3話)……南ドイツ舞台の儀式殺人/魔術ホラーミステリー。作者は邦版アーカム・ハウス叢書元編集者であり本特集にも因み。
荒俣宏ラヴクラフトとかれの昏い友愛団──内面像としてのラヴクラフトが、なぜぼくたち日常世界の住人に開かれているのか──」……旧『幻想と怪奇4 ラヴクラフトCTHULHU神話特集』(1973)掲載の先駆者による熱量無比な評論再録。
アーカム・ハウス書影集」/「アーカム・ハウス刊行物一覧」……共に本誌編集室による労作。

総じてCTHULHU MYTHOSのみならずアーカム・ハウス全容のスケールと深度を感得できる充実度感嘆。創業85年にならんとする英傑版元に新たな注目あれかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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