『幻想と怪奇 13 H・P・ラヴクラフトと友人たち』

『幻想と怪奇 13 H・P・ラヴクラフトと友人たち』(牧原勝志編 新紀元社 2013/3月刊)

http://www.shinkigensha.co.jp/book/978-4-7753-2078-5/

装画 ひらいたかこ 装丁 YOUCHAN

旧『幻想と怪奇』誌(三崎書房/歳月社1973~74)の全12号をついに超えて13号の刊行成った新編『幻想と怪奇』。今号は満を持しての初特集となるラヴクラフトアーカム・ハウスをテーマとし かの特殊書肆の意義を実作品群によって掘り下げている点が特筆。ラヴクラフトおよび親しい友人作家たち/歿後HPL書を刊行し作家としても後継したダーレスとワンドレイ/その流れを現代にまで書き継いだ作家たち/影響下にある日本作家代表格たち──の万全構成。

H・P・ラヴクラフト 断章二題「魔の書」「月下に佇むもの」……アーカム・ハウスによってこそ日の目を見得たHPLの文字通りの断章作品。短くも異世界描写と妖異の怪奇性は教祖的片鱗如実。新訳担当は『吸血鬼ラスヴァン』『英国クリスマス幽霊譚傑作集』で共編共訳を仰いだ平戸懐古氏。
ヘンリー・S・ホワイトヘッド「成らず神」……西インド諸島を舞台とする個性発揮の医学ホラー。
クラーク・アシュトン・スミス「死者たちの惑星」……異才躍如の絢爛天文幻想記。
フランク・ベルナップ・ロング……「闇に潜むもの」……魔女伝説の地セイレム舞台のユーモア篇。
オーガスト・ダーレス「川風の吹くとき」……濃厚怪奇のサスペンス幽霊譚。「ラヴィニア」の名にはニヤリ。
オーガスト・ダーレス「鏡の中の影」……3人姉弟と亡伯母のグロテスクな愛憎劇。
ドナルド・ワンドレイ「塗りつぶされた鏡」……鏡とアイデンティティを巡る幻視。
ドナルド・ワンドレイ「赤い脳髄」……16歳(!)若書きの遠未来宇宙SF。G・イーガン思わす難解世界。
ロバート・ブロック「斧の館」……セミコメディタッチの見世物幽霊屋敷録。名調子訳文(植草昌実)。
ジョセフ・ペイン・ブレナン「チルトン城の恐怖」……ゴシック風城館の奥に潜む怪異は凄絶の極み!
ベイジル・コッパー「洞窟」……アーカム・ハウスに関係した英国作家の一角による洞窟怪奇。
ラムジー・キャンベル「深淵」……同じく英国の現役重鎮。小説家を蝕む現代的恐怖と狂気。
黒史郎琥珀色の海」……気鋭によるHPL&MYTHOSへの濃密オマージュ。
井上雅彦「ルルの楽園」……自家薬籠の懐旧美溢れるアミューズメントパークMYTHOS。
朝松健「黒い森のリア」(連作《ベルリン警察怪異録》第3話)……南ドイツ舞台の儀式殺人/魔術ホラーミステリー。作者は邦版アーカム・ハウス叢書元編集者であり本特集にも因み。
荒俣宏ラヴクラフトとかれの昏い友愛団──内面像としてのラヴクラフトが、なぜぼくたち日常世界の住人に開かれているのか──」……旧『幻想と怪奇4 ラヴクラフトCTHULHU神話特集』(1973)掲載の先駆者による熱量無比な評論再録。
アーカム・ハウス書影集」/「アーカム・ハウス刊行物一覧」……共に本誌編集室による労作。

総じてCTHULHU MYTHOSのみならずアーカム・ハウス全容のスケールと深度を感得できる充実度感嘆。創業85年にならんとする英傑版元に新たな注目あれかし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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