『死の隠れ鬼 J・T・ロジャーズ作品集』(読了

『死の隠れ鬼 J・T・ロジャーズ作品集』(宇佐見崇之 訳 2019/8月刊 Re-Clam事務局)読。

https://neunumanumenu.hatenablog.com/entry/2019/07/30/175932

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本邦初のジョエル・タウンズリー・ロジャース中短篇集で 収録作数は3篇のみ乍ら 短めの長篇にも近い分量の中篇2作(「死者を二度殺せ」「死の隠れ鬼」)と短篇1作(「真紅のヴァンパイア」)+解説という構成のため200ページ超のボリューム。各作の大枠は 発行者 三門優佑氏のブログでの紹介 ↓ が的確。

【 …フロリダのホテルを舞台に毒蛇を用いた恐るべき陰謀を描く「死者を二度殺せ」、お得意の飛行機小説を怪奇趣味とドッキングした「真紅のヴァンパイア」、そして嵐の夜に大邸宅から影のように消えた殺人狂を追う「死の隠れ鬼」… 】

http://deep-place.hatenablog.com/entry/2019/07/03/171059 )

またミステリーとしての分析に関しては訳者 宇佐見氏による解題を読んでもらうのが一番なのでそちらに譲り ここでは敢えて「小説」としての感想に絞って記せば── 兎に角いずれも大山誠一郎氏の讃(カバー裏)にある「比喩でなく文字通り睡眠中に見る悪夢」の言が大袈裟ではないと得心させられる点が最印象。中でも大富豪・推理作家・爬虫類学者 等奇矯な人物群像が入り乱れる背後で生死を賭した暗闘が秘密裏に進展する様を綴った「死者を二度殺せ」は まさに麻薬か悪酒が見せる毒々しい幻夢そのもののよう。もうひとつの中篇=表題作「死の隠れ鬼」もまた 不気味な言葉を喚く鸚鵡・跳梁する猿・咆哮する犬 等々 終始作中を跋扈する夢魔のごとき獣たちの群れに象徴される狂乱ぶりにおいてひけをとらない怪作。それらに挟まれた「真紅のヴァンパイア」は最短ながら しかし発想の突飛さはある意味最大かも。飛行機物でこの怪奇ネタと来れば まさか?…と何やら想像させるが 本作の豪放無比な破壊力はそんな安易な憶測など寄せつけない域。3作ともミステリーの行儀よい価値基準を無に帰すほどの破天荒さで 代表作長編『赤い右手』についてよく言われた「計算か天然か」との評句を思い出させられるが その実各作の独自性は強烈で『赤い…』のみでは汲み切れないこの作家の奥深さ幅広さを垣間見せてくれる。その意味で初邦訳作品集の意義は大きい。

巻末の「訳者解題」は 作者&収録作紹介のみにとどまらず 後期クイーン問題マニエリスムへの言及等 小評論として刺激的。

 

因みに訳者 宇佐見氏は本書収録作以外にも過去にロジャーズ作品2篇を同人誌に訳出しており 実は厚意によりそれらも読ませていただいた(掲載誌『ROM』入手困難のため)。その1篇「人形は死を告げる」は奇怪な呪術人形と推理劇の絡みがスリリングなサスペンス もう1篇の「殺人者」はある人妻の死を巡る意外譚で 其々個性的(後者は70年代に既訳あり)。ともに採録の機あれかし。

 

↓ 「真紅のヴァンパイア」初出誌『BIRLSTONE GAMBIT(バールズトン・ギャンビット)』(関西ミステリ連合OB会)2017春号 と「殺人者」既訳バージョン(山本光伸訳)掲載誌『ミステリ マガジン』(早川書房)1972/3月号。

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なおロジャーズ作品集の企画は 山口雅也氏 製作総指揮の新叢書《奇想天外の本棚》(原書房)でも予告が出ており 本書『死の隠れ鬼』はそちらとの兼ね合いを考慮して作品選定する等 発行者&訳者の苦心が偲ばれる。 既に大半売れたようで慶賀。時ならぬ(?)JTR旋風に期待。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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