赤川次郎 他『三毛猫ホームズと七匹の仲間たち』(論創社 2019/7月刊) 読。
「出版状況の厳しさから、新人賞を受賞した人たちにとって、次のステップの機会が少な」い昨今の環境への対応として編まれた競作集の由(浜井武による巻末解説より)。ゲストに赤川次郎を迎え ベストセラーシリーズ《三毛猫ホームズ》に因み〈動物〉テーマが課題。赤川は先頭で往年の名作短篇「三毛猫ホームズの殺人展覧会」を提示。ある意味で陰惨と言える事件を扱い乍ら 独特のウィットと含蓄深い展開流石。以下 参加作家陣の各作。
山本美里「御所前お公家探偵社」…元貴族探偵が不貞殺人に挑む。動物は〈犬(狆)〉だが 〇&〇〇も付加。名家 鞠小路家は鞠小路鞠夫(我孫子武丸作)と因縁?
米田京「キッチン大丸は今日も満席」…レストラン経営を巡る変死事件を意外な探偵役が推理。動物は〈鯉〉僅かな登場シーン鮮やか。
川辺純可「プリズンキャンプのバッファロー」…戦時米国日系人収容所舞台で 秘史に目を開かせる異色篇。動物は〈野牛(バッファロー=バイソン)〉。
稲羽白菟「五段目の猪」…私的最注目作。長篇『合邦の密室』に続く海神惣右介(わだつみそうすけ)シリーズ。文楽の世界舞台の過去事件を語りのみから解く安楽椅子探偵譚。動物は〈猪〉。
井上凛「メルシー・ボク」…遺産殺人を〈犬〉が解決。ある種の〇〇トリックが妙味。
植田文博「これは私の物語」…アクション+医学を絡めた唯一のハードボイルド。老人と若い娘の奇妙な関係が鍵。動物は〈猫〉。
和喰博司「ホタルはどこだ」…現職気象庁職員作家による〈蛍〉観測奇譚。殺人の起こらない 心暖まる好篇。
いずれも感心余儀ない秀作揃い乍ら 個人的には「五段目の猪」と「メルシー・ボク」が最推し。前者は 悲劇性&外連味等 伝統系本格ミステリとしての達意の美観に 後者はユーモアの陰に隠した企みの見事さに 其々拍手。
なお各作冒頭に《三毛猫ホームズ》の思い出や自己紹介を記したページあり。巻末には版元による第1回論創ミステリ選賞(!)開催宣言も。
【偉そうに「小説指南」などするつもりはないけれど、(中略) 心細かったとき、私を支えてくれたのは、「小説を書くことが楽しい!」という思いだった。】──赤川次郎の巻頭言「新人作家のころ」より。
- 作者: 赤川次郎他,横井かずみ,山木美里,米田京,川辺純可,稲羽白菟,井上凛,植田文博,和喰博司
- 出版社/メーカー: 論創社
- 発売日: 2019/07/13
- メディア: 単行本
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