劉慈欣『三体』

 劉慈欣(りゅうじきん)『三体』(大森望 光吉さくら ワン・チャイ 訳 立原透耶 監修 2019/7 早川書房) Kindle版 読。 

三体

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中国SFの「中国文学での価値観を根底からひっくり返し」「SF小説の版権は書き上げるや否や飛ぶように売れる」(=立原透耶による「監修者解説」より)時代を到来せしめたのみならず アジア圏初のヒューゴー賞受賞作になり世界のSF界をも席巻するに至ったという超話題作の由で 当然乍ら難解な科学知識が頻出する予感から敬遠するのが個人的慣例だが 本作には奇妙にも食指を惹かれ開巻。予想に違わず科学情報量は膨大で その道の音痴を難渋さす度合はG・イーガン級。がその情報〈量〉自体の有無を言わさぬ圧倒性がある種の説得力と化し 音痴すらも強引に牽引。「三体問題」(無理解なので詳細割愛)具現化により奇怪な命運を辿りつつある異星の民と地球人との接触を図って地球を滅亡に追い込もうとする地球三体組織(ETO)の女性リーダー葉文潔(ようぶんけつ)対 それを阻まんとする地球軍の中心人物たる科学者 汪淼(おうびょう)の2人の主人公が成す物語構図に破天荒な歴史観を持つ壮大な〈三体ゲーム〉が組み込まれ さらには〈元首〉率いる謎の〈三体星人〉たちによる延々たる地球侵攻作戦会議… 果たして地球は侵略され滅ぼされるのか否か… 評す見識も資格も持たないのでただ凄いものだなとでも呟くしかないが 何故か(ジャンルも内容も全く異なり乍ら)香港発ミステリー『13・67』(陳浩基)の肌触わりを屡々思い出させ──大胆/精緻 非情/繊細 暗澹/希望 リアル/非リアル… その一方で 三体星人に古のもの(=狂気山脈の) or大いなる種族(=超時間の)等の姿をつい重ね合わせたりしてしまう某方面者の性も… 続巻 続々巻はさらに増量の模様で 関心は強まるも チャレンジできるかは読書力的に微妙と言わざるを得ず…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『死の隠れ鬼 J・T・ロジャーズ作品集』(読了

『死の隠れ鬼 J・T・ロジャーズ作品集』(宇佐見崇之 訳 2019/8月刊 Re-Clam事務局)読。

https://neunumanumenu.hatenablog.com/entry/2019/07/30/175932

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本邦初のジョエル・タウンズリー・ロジャース中短篇集で 収録作数は3篇のみ乍ら 短めの長篇にも近い分量の中篇2作(「死者を二度殺せ」「死の隠れ鬼」)と短篇1作(「真紅のヴァンパイア」)+解説という構成のため200ページ超のボリューム。各作の大枠は 発行者 三門優佑氏のブログでの紹介 ↓ が的確。

【 …フロリダのホテルを舞台に毒蛇を用いた恐るべき陰謀を描く「死者を二度殺せ」、お得意の飛行機小説を怪奇趣味とドッキングした「真紅のヴァンパイア」、そして嵐の夜に大邸宅から影のように消えた殺人狂を追う「死の隠れ鬼」… 】

http://deep-place.hatenablog.com/entry/2019/07/03/171059 )

またミステリーとしての分析に関しては訳者 宇佐見氏による解題を読んでもらうのが一番なのでそちらに譲り ここでは敢えて「小説」としての感想に絞って記せば── 兎に角いずれも大山誠一郎氏の讃(カバー裏)にある「比喩でなく文字通り睡眠中に見る悪夢」の言が大袈裟ではないと得心させられる点が最印象。中でも大富豪・推理作家・爬虫類学者 等奇矯な人物群像が入り乱れる背後で生死を賭した暗闘が秘密裏に進展する様を綴った「死者を二度殺せ」は まさに麻薬か悪酒が見せる毒々しい幻夢そのもののよう。もうひとつの中篇=表題作「死の隠れ鬼」もまた 不気味な言葉を喚く鸚鵡・跳梁する猿・咆哮する犬 等々 終始作中を跋扈する夢魔のごとき獣たちの群れに象徴される狂乱ぶりにおいてひけをとらない怪作。それらに挟まれた「真紅のヴァンパイア」は最短ながら しかし発想の突飛さはある意味最大かも。飛行機物でこの怪奇ネタと来れば まさか?…と何やら想像させるが 本作の豪放無比な破壊力はそんな安易な憶測など寄せつけない域。3作ともミステリーの行儀よい価値基準を無に帰すほどの破天荒さで 代表作長編『赤い右手』についてよく言われた「計算か天然か」との評句を思い出させられるが その実各作の独自性は強烈で『赤い…』のみでは汲み切れないこの作家の奥深さ幅広さを垣間見せてくれる。その意味で初邦訳作品集の意義は大きい。

巻末の「訳者解題」は 作者&収録作紹介のみにとどまらず 後期クイーン問題マニエリスムへの言及等 小評論として刺激的。

 

因みに訳者 宇佐見氏は本書収録作以外にも過去にロジャーズ作品2篇を同人誌に訳出しており 実は厚意によりそれらも読ませていただいた(掲載誌『ROM』入手困難のため)。その1篇「人形は死を告げる」は奇怪な呪術人形と推理劇の絡みがスリリングなサスペンス もう1篇の「殺人者」はある人妻の死を巡る意外譚で 其々個性的(後者は70年代に既訳あり)。ともに採録の機あれかし。

 

↓ 「真紅のヴァンパイア」初出誌『BIRLSTONE GAMBIT(バールズトン・ギャンビット)』(関西ミステリ連合OB会)2017春号 と「殺人者」既訳バージョン(山本光伸訳)掲載誌『ミステリ マガジン』(早川書房)1972/3月号。

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なおロジャーズ作品集の企画は 山口雅也氏 製作総指揮の新叢書《奇想天外の本棚》(原書房)でも予告が出ており 本書『死の隠れ鬼』はそちらとの兼ね合いを考慮して作品選定する等 発行者&訳者の苦心が偲ばれる。 既に大半売れたようで慶賀。時ならぬ(?)JTR旋風に期待。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『死の隠れ鬼 J・T・ロジャーズ作品集』(拝領

『死の隠れ鬼 J・T・ロジャーズ作品集』(宇佐見崇之 訳 2019/8発行 Re-ClaM事務局)

http://seirindousyobou.cart.fc2.com/ca4/528/

訳者 宇佐見崇之氏よりご恵送賜り。

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作者は長篇『赤い右手』(拙訳 国書刊行会 世界探偵小説全集/創元推理文庫)を代表作とするジョエル・タウンズリー・ロジャーズで 邦訳中短篇集は本書が初となる。

収録作「死者を二度殺せ」「真紅のヴァンパイア」「死の隠れ鬼」の3篇。巻末に「訳者解題」「編集部より」および訳者による 作品集Killing Time and Other Stories紹介あり。カバー裏に大山誠一郎氏による賛辞(写真)。

 

ありがとうございました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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デイヴィッド・ピース『Xと云う患者 龍之介幻想』

河童忌(7/24)には間に合わなかったが…  デイヴィッド・ピース『Xと云う患者 龍之介幻想』(黒原敏行 訳 2019/3月刊 文藝春秋)Kindle版 読。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163910017

Xと云う患者 龍之介幻想

Xと云う患者 龍之介幻想

 

 

コラージュ的or幻想現実交差等の見方も勿論できるが その実徐々に新しい形の伝記小説の趣を強くしていき 分散感よりも意外に直線的な物語と読め 芥川龍之介の不安と狂気に彩られた人生にいつしか暗然と入り込ませられ この偉才が35歳の夭折であることに改めて驚き。不徳にも教科書掲載を始めとする有名諸作にしか触れてこなかったため 本書を読む過程で未読作を漁れたのは今更に収穫。とくに全く未知だった「堀川保吉物」と呼ばれる一連の作群が電子書に纏められていたのには助けられ。この保吉なる男は芥川の分身と目される人物だが 文人らしい自我の危うさに苛まれ乍らもどこか飄然としたユーモアを湛え 夏目漱石吾輩は猫である』の苦沙弥先生に一縷通じる部分も。がその背後に潜む暗鬱は深く『河童』『歯車』等の異常境との相関or直結をそこはか窺わせもする。芥川の死が大正文化の終末を告げたとされる観が 現在状況の中で本書が刊行された意味を示唆するとも思えるが それは時代の変わり目と言うよりも 実は「変わらない」時代の危機感をこそ仄めかしているのかも──同作者による『TOKYO YEAR ZERO』シリーズがそうであったように…などと。訳文は敢えて芥川本人の文体を彷彿させるべく工夫され 趣向精神に感心すると同時に苦心が偲ばれ。漢字 片仮名語の表記法に至るまでここまで凝るなら いっそ全文旧仮名でやってもよかったのではとすら。傑作にして問題作。

 

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河童忌に百圓合羽藪の中       鵺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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南條竹則 編訳『インスマスの影』(贈)

巷で何かと噂の新潮文庫版 H・P・ラヴクラフトインスマスの影 クトゥルー神話傑作選』(南條竹則 編訳 2019.8.1) 早め入手した方から現物垣間見せてもらったのち帰宅のところ…何と南條氏より贈られていたればなりと知る!

https://www.shinchosha.co.jp/book/240141/

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(装画 M!DOR!)

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帯推薦者 意表衝く恩田陸 氏!…

収録作「異次元の色彩」(The Colour out of Space)「ダンウィッチの怪」(The Dunwich Horror)「クトゥルーの呼び声」(The Call of Cthulhu)「ニャルラトホテプ」(Nyarlathotep)「闇にささやくもの」(The Whisperer in Darkness)「暗闇の出没者」(The Haunter of the Dark)「インスマスの影」(The Shadow over Innsmouth)。…注目邦題は「暗闇の出没者」か。

巻末「編訳者解説」では諸既訳書紹介もあり(森瀬繚訳版含む)。神話用語片仮名表記についての言及も──1点だけ敢えて洩らせば…

諸既訳と大きく異なるものとして訳者自ら「プナコトゥス写本(Pnakotic manuscript)」を挙げ。

まさに愈々HPL戦国時代(吉田仁氏の言)の感?

 

既に店頭に出ている模様(現状電子は無しか)。

 

インスマスの影 :クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)

インスマスの影 :クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)

 

 

 

南條さんありがとうございました!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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本届好日

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初刊時入手し読んでもいる(つもり…)が 未だ開かずの引越段ボール億劫ゆえ この際某所出品安め(&送料無料)物 敢えて調達。既に意外なほど古書出廻り少。

 

秘神界―歴史編 (創元推理文庫)

秘神界―歴史編 (創元推理文庫)

 
秘神界―現代編 (創元推理文庫)

秘神界―現代編 (創元推理文庫)

 

 

奔扼業界先細り止まずゆえ「一発当てたれ」と長篇創作挑戦のため 諸先達手本の一環。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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