朝松健『邪神帝国・完全版』(アトリエサード 2020/1月刊 ↓ 写真左下)
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最初刊時(写真右下 ↓ ハヤカワ文庫JA 1999)作者より献本頂き初読 今般再読。(※ ↓ 右上は同書 創土社版2013 装画 槻城ゆう子)
↑ 写真左下『完全版』カバー中央 眼のオブジェはマンタム=田村秋彦 作。その右の半顔は巻末収録作「怒りの日」の実在主人公クラウスの肖像写真。
1994~98年『SFマガジン』掲載作を軸としたクトゥルフ神話+ナチス・ドイツ テーマ短篇集に 新旧解説3種と新資料を併載したまさに完全版。
「"伍長"の自画像」……作者を思わす作家Aと屈折した青年 平田との運命的邂逅。神話とナチスの架橋鮮烈。集中唯一本邦舞台。(※本作のみ『小説CLUB』初出)
「ヨス=トラゴンの仮面」……朝松版 神話要素の一角となる邪神&仮面の本格端緒作。WWⅡ前夜期 日本軍間諜 神門帯刀(ごとうたてわき)がSS長官ヒムラーより帯びた密命とは? 魔術師メルゲルスハイムとロンギヌスの聖槍も絡み 魔的第三帝国興亡史開幕。
「狂気大陸」……史実上の謎めくナチス南極探検を背景とする ラヴクラフト名作『狂気山脈』後裔譚。ショゴスの迫力は怪絶の極み。テケリ・リ!
「1889年4月20日」……十九世紀末ロンドン切り裂きジャック事件の神話的解読。実在魔術師メイザース登場 次世紀ナチスへの驚愕の連動。
「夜の子の宴」……ルーマニア山地でドイツ軍が遭遇する怪異。吸血鬼と神話の共存はラムレイ『ネクロスコープ』にも通ず。
「ギガントマキア1945」……ナチス南米逃走作戦の秘史。Uボートを襲う巨大海魔!
「怒りの日」……史実ヒトラー暗殺未遂事件の暗部。邪教に侵犯された末期的政府転覆計画実行犯クラウスの凄愴悪夢。(※ハヤカワ文庫初刊時 唯一書き下ろし作で 2008年トム・クルーズがクラウスを演じた映画『ワルキューレ』に約10年先行)
「魔術的註釈」……単なる註に非ず 作者自家薬籠の魔術智識と神話設定が同一文脈で混淆する眩惑的箴言集の様相。
他に新資料として「関係年表」……創土社版「関連年表」から全面改稿 大幅増量&詳説 /「構想メモ」……作者発掘品 今版初載 超貴重!
解説はハヤカワ版の井上雅彦/創土社版の末國善己 の他に 今回新たに林譲治も参加。作者の〈遊び心〉に着目する井上/テーマのアクチュアリティに注目する林/各作毎に歴史説明加え詳述する末國 と 3者3様の切り口が味読に資す。
全作ナチスを共通項とし乍ら 総じては 全地球観 全人類史まで眺望の趣。クトゥルフ神話の高可能性と作者の深謀を改めて感得。
(なお本書には英訳版"Kthulhu Reich"(Jim Rion訳 Kurodahan Press 2019)もあり所持済)
『魔道コンフィデンシャル』(創土社 2015年刊)読。写真左上 ↑ 装画 山田章博(挿画も) 中央 記念ポスカ。
http://www.soudosha.jp/Cthulhu/mado.html
1950年代シカゴ舞台のクトゥルフノワール。主役=実在の日系人マフィア衛藤健(えとうけんorケン・エトウ)=通称トウキョウ・ジョーが「ヨス=トラゴンの仮面」の神門帯刀と共に ナイアルラトホテップvsヨス=トラゴンの邪神間戦争に巻き込まれる。霊的地区バチュラーズ・グローブ(実在)/レンの片眼鏡(モノクル)/謎の組織S.I.E.G.E…等々数多の魅力的要素頻出に加え 終盤には魔術師メルゲルスハイムも登場し 拳銃vs触手の凄絶活劇 怒濤展開。ジョーが戦時中ドイツに派兵された設定(史実?)も含め 諸点で『邪神帝国』とも繋がるが こちらは時にユーモラスさや天衣無縫な荒唐無稽さが特徴。序盤1度だけウィルマース・ファウンデーションの名も! (因みにコンフィデンシャルの語はJ・エルロイ原作映画『L.A.コンフィデンシャル』以来 ギャング物の象徴記号に)
『魔道コンフィデンシャル』にサイン頂く。
https://domperimottekoi.hatenadiary.org/entry/20170605/1496626359
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