千澤のり子『少女ティック 下弦の月は謎を照らす』(行舟文化 2021/1月刊) 読。
https://www.gyoshu.co.jp/items/35990752
【春夏秋冬 季節が巡るごとに巻き起こる事件を通じて 少女は一歩ずつ成長していく──】
『君が見つけた星座』(原書房 2017)以来4年ぶりとなる個人作品集で 2016~17にかけ『ジャーロ』誌に連載した4篇に書き下ろしの「エピローグ」を加えた連作ミステリ集。また千澤のり子名義単独でのデビュー作である長篇『マーダーゲーム』(講談社ノベルス 2009)以来の小学生ミステリ(!)でもある。
主人公 片瀬瑠奈はある都市部住宅街に住むごく普通の小学5年生で ゲーム好きの利発な少女だが 自身に格別な推理能力があって難事件を快刀乱麻していくわけではなく その面に関するかぎりは寧ろワトスン役に近い立ち位置を採り 名探偵役は別のある人物が担う(版元の紹介文ではその点を明示しておらず ここでも一応秘す)。
「春 第一話 少女探偵の脱出劇」主人公瑠奈が何者かに監禁され 携帯ゲーム機を頼りに脱出を図る。
「夏 第二話 少女探偵の自由研究」夏休みに初めての独り旅を試みた瑠奈が奇妙な町に紛れ込む。
「秋 第三話 少女探偵の運動会」瑠奈を脅す〈死神〉なる謎の存在が運動会の進行とともに解き明かされる。
「冬 第四話 少女探偵と凍死体」瑠奈の兄の身辺で起こった変死体事件を あるスマホゲームとの関わりから究明。
各篇に共通するのは いずれにも何らかの形でゲームが関わってくることと もう1点重要なのは それぞれの叙述の一部に仕掛けが秘められていること。個人的にはゲーム全般を得意としない読者なのでその面での追いつきが危惧されたが 門外漢の目にも決して晦渋に走らない平易懇切な説明が適宜織り込まれ安堵。このゲーム側面は読み進むうちに現実と非現実との交錯の効果があると得心。また叙述の仕掛けについては作者の最大の志向と予め承知しており 期待が満たされ快哉──その面はエピローグまで含めたこの連作総体にも言え つい「やったな」とニヤリとさせられ。
当然予想されるとおり 奇絶怪絶・不可思議千万な大上段の物語ではなく 少女が一見何げない日常の中で事件に巻き込まれていく設定だが そうでありつつも既成の所謂〈日常の謎〉路線とは異なり 常にある種の昏さ・怖さ・妖しさを底に秘めている点がこの作者の特徴──その意味で「酷い事件があたかも童話のように読めてしまう」と言う新井素子の讃は的確。
全4作中で敢えて選ぶとすれば さり気ない異界感が心地よい第二話が最も個人的好みかも。
本書は作者 千澤のり子さんより拝領しました 深謝!
その千澤さんと4月23日(金) 神奈川近代文学館【永遠に「新青年」なるもの】訪問。
https://www.kanabun.or.jp/exhibition/13484/
想像以上に多量の展示で充実。圧巻は『新青年』全号表紙実物の壮観。個人的には妹尾アキ夫 夫妻写真に感慨。
帰途は会場のある〈港の見える丘公園〉坂路を徒歩でくだり 横浜マリンタワー ベイブリッジ等を初展望。
入館前には中華街にて昼食 千澤さんより本書にサインいただく。
サイン右下は千澤さん得意のホルンの図。諸々ありがとうございました!
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