H・P・ラヴクラフト『這い寄る混沌』森瀬繚 訳

H・P・ラヴクラフト『這い寄る混沌  新訳クトゥルー神話コレクション3』(森瀬繚 訳 2018/11月刊 星海社FICTIONS)読。

http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000318599

f:id:domperimottekoi:20190814112520j:plain

f:id:domperimottekoi:20190814112828j:plain

『クトゥルーの呼び声』『『ネクロノミコン』の物語』に続く新訳HPL傑作集 第3弾(刊行から1年近く経っての読了 甚だ忸怩)。今回は本邦最人気邪神と呼んでも過言ではない 這い寄る混沌=ナイアルラトホテプ登場作4篇(※編纂上 後続巻編入作もある由) +その他の諸神を軸とした代作小説群 数篇を併せ 前巻より大幅増量の470ページ超。原著執筆順収録の方針が依然厳密に守られているが ここでの紹介はとりあえずナイアル優先で…

ナイアルラトホテプ」「這い寄る混沌」(※後者は共作)の2小篇は件の無貌神の初紹介作群で その強烈なトリックスター性と謎めく原風景とが早くも呈示される。続く傑作短篇「壁の中の鼠」ではグロテスク趣味極まる展開の中で 短い言及乍ら後年の設定に大きな影響を及ぼす描写が鮮烈。巻末の最重要作「闇の跳梁者」では〈輝く偏方二十四面体(トラペゾヘドロン)〉を始めとするナイアル関連必須要素続出。因みに同作の邦題は『定本ラヴクラフト全集』版の訳題に準じており個人的に好み(原題The Haunter of the Darkのイメージは「闇をさまようもの」では些か弱い)。また作中で言及される架空作品The Burrowers Beneathが のちのB・ラムレイによる実作の邦題『地を穿つ魔』に近い『地を穿つもの』とされているのは欣快(定本『地底に潜むもの』創元『地底に棲むもの』)。

その他の諸作「最後のテスト」「イグの呪い」「墳丘」「電気処刑器」「石の男」「蝋人形館の恐怖」はいずれも他作家(デ・カストロ / ビショップ / ヒールド)のための代作及び改作で シュブ=ニグラス / ナグ / イェブ / イグ / ラーン=テゴス 等々 謂わばナイアル周辺とも言える諸神の名に触れられる。中でも「最後の…」「電気…」は改作前の原作(共にデ・カストロ筆)も併載する念の入れようで 比較によりHPLの筆の豊かさが一段と際立つ仕組み。また「墳丘」は「イグ…」の続篇に相当するゆえの収録だが 第1集『クトゥルーの呼び声』に既載のため 本書では敢えて雑誌掲載時バージョン(ロング&ダーレスによる短縮版)をという これまた細心配慮。因みに「イグ…」は昨年完結を見た菊地秀行の傑作和製神話『美凶神YIG』(創土社)の触発源となった作としても適時宜。

巻末の各作解説は相変わらず見開きにきっちり収める芸の細かさ。地図・年表・索引・神々の系図 等の資料も充実。今まで以上に代作群の多くなった本集では 編者による「はじめに」で紹介されている「背景素材(バックグラウンド・マテリアル)」なる共有認識概念をHPLが重視していたことが のちのクトゥルー神話発展にとって如何に肝要だったかが特段に実感される。 

中央東口 画伯による装画の黒き紳士像 殊更に魅力的。

這い寄る混沌 新訳クトゥルー神話コレクション3 (星海社FICTIONS)
 

 

↓ 訳者 森瀬氏に先般お会いした折 またまたサインいただき。

f:id:domperimottekoi:20190814112707j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.